イミグラ話ちょっと置いといて、家族危機一髪の話


だいぶ前にイミグラでビザの更新手続きの話を書いて途中のまま、チョコラテ作りでバタバタして続きを忘れていたら、先日家族でメキシコシティに行った帰り、久々にインパクトのある経験をしたので、記憶が薄くならないうちに、そのお話し。

6月末、メキシコシティでお世話になっているファミリーのお父さんの盛大な還暦祝いがあり、僕ら5人もオアハカから馳せ参じた。 家族の長距離移動は、メキシコシティからの引っ越しのために手に入れたシボレーの大きなSUBURBAN(89年式)。
恐ろしい燃費だけど、もう20年以上北中米大陸を走って来た歴史がにじみ出た無骨さが魅力的な外観、座席は3列、6時間の道中も子供たちは車内でゴロンとしたり、ふざけ合える広さが嬉しい。

ただ、オアハカに来てからこれまでに3度メキシコシティを往復しているが、毎度必ず帰り道でパンクして、荒野を突っ切るハイウェイの路肩でタイヤ交換したり、予備タイヤもパンクして時速10kmで次の村までギコギコ運転するような羽目に陥ったりしていた。
苦労は買ってでも、というが、車のトラブルに関しては僕らはお腹いっぱいで、今回4度目のシティ往復に向けて事前に整備を頼み、4輪とも新しいタイヤを付け、珍しく僕らなりに万全の体制で行く事にした。
たまには家族5人、平穏無事な旅も悪くないだろう。

行きはオアハカを早朝出発し、渋滞に煩わされる事も無くシティに到着し、数日間楽しいメキシコシティでの時間が過ごせた。
オアハカに戻る日、シティでしか手に入らない日本食など沢山のお土産と一緒に、午後メキシコシティを出発した。
暑い日はメキシコの太陽に熱せられた路面の温度がタイヤ圧を上げて、長距離つい休憩取らずに走っているとパンク!なんてこともあるが、その日はけっこう涼しくて、新しいタイヤも付いているし、こりゃ、オアハカまで心配なーい!というまさに大船に乗った状態だ。
高速入り口のガソリンスタンドでタイヤ圧をはかる。OK。オイルもOK。

メキシコシティを出発してから2時間で陶器の街プエブラを通り、その後ベラクルスとオアハカの分岐を過ぎれば、あとはひたすら荒野と山の200kmを超えるのみ。

おやつを食べて、荒野のサボテンを見て子供たちと話しながら、平和な車内、外は日が沈み始めた頃、雨が降り始めた。
4月までの乾期、水が慢性的に不足している我が家、いつでも雨は嬉しくなるもので、みんなで暗くなる窓の外を眺めながら、僕はリズムを刻むワイパーの音を聞いていた。

運転していたマキと家に着いたら何食べようか、なんて話をしていたとき(多分家まであと2時間くらいの所だったはず)、さっきまで強い雨脚に合わせて頑張っていたワイパーが、なんだか頼りないくらいゆっくりになっているのに気付いた。

ガチャ、ガチャっと切り替えても早くならない。なんでだろー、と話しながら色々いじってみると、窓のパワーウィンドウが動かなくなっている。
ねえっ、何かヘッドライトも弱くなってない?
おおっ、ホントださっきより暗いぞ〜!
すっかり暗くなり、雨は相変わらず降り続く中、ヘッドライトは薄ぼんやり、ワイパーはゆったり動いているのだ。おいおい!

これはマズいぞ。
路肩で広がっている場所を見つけて停めた。
すぐ脇にMECANICO(修理工)の看板がついた小屋があって、早速とりあえずボンネットを開けてみるもよく分からないので、小屋にいた青年に声を掛けて症状を話す。
電気系のトラブルだと思っていたけれど、案の定バッテリーが問題だろうと。
あいにくバッテリーを含め電気系のトラブルは彼の専門外らしく、次の村、もしくはガソリンスタンドでどうにかする、という結論が出た。

ハァ〜、また、こんな流れか。と、これまでのメキシコシティの帰りを思い出しながら溜息ついても仕方が無い。(ちなみに、たまたま停まったその場所、前回もパンクで止まった場所だった。今回話した青年も僕らのことを覚えていた。やれやれ)
ワイパー無しだろうが、ヘッドライトが弱かろうが、家に帰るには前に進んでどうにかするしかなかった。

ところが覚悟を決めて出発すべくエンジンをかけようとしたら、セルがウンともスンとも言わない!
ダメだ、すでにバッテリーがイカれていた。 カチャッとキーを回しても、聞こえるのは外の雨の音だけ。

と、困る状況で、幸運にもちょうど道路を渡ったところに、雨で見えなかったが警察車両が停まっていて、事情を話すとパトカーをウチの車の前に回して、バッテリーをチャージしてくれた。
ホッ。 やっとエンジンが掛かるようになり、パワーウィンドウも作動して、やっと少しだけ開きっぱなしで雨が降り込んでいた窓も閉められた。
警官からは家に着くまでエンジン切らない方がいいねと言われる。
とにかく家に帰れるんだったら、なんでもいい。エンジン絶対切りません!

マキはボンネットのバッテリーを見ながら、これ、元から付いてたこの車のバッテリーじゃないよね、と言い始めた。
確かに、新品のバッテリーが付いた状態のこの車を買ったのがちょうど1年前。
でも、目の前に付いてるのは大分年期の入ったものだ。 なんて言っても、話したってどうしようもないので、出発して家に向う。
今回の旅行前の整備の時に交換されたのかも知れない、とモヤモヤするが、明日電話して聞けばいいさ。
警官にお礼を言って、再び高速道路に戻る。
なんだか頼りないけど、一応ワイパーもヘッドライトも働いている。一安心。さぁ、残り2時間半、サァーっと家まで走るぞ!

タイヤは大丈夫だと思ったら、今度はバッテリーか〜、どうにも平穏無事な旅は難しいなぁ。
でも運良くすぐどうにかなったし、今回のトラブルもちょっとした話のネタだね、と笑いながら暗闇の高速道路を家に向かっていった。

バッテリーをチャージしてもらってから多分まだ15分位しか経ってなかったと思う。
急にワイパーが動かなくなった。
そしてヘッドライトの光がしぼんできた。

見る見るライトが、本当に薄ぼんやりとしか前を照らさなくなってしまった。
お、お、お、っと言っている間に、どんどん、さっき停まった前よりも、ヘッドライトが弱くなっていた。
そとは真っ暗、もちろんメキシコの高速道路に灯りなんて付いていない。
真っ暗な高速道路を、ほとんど無灯火で走り続けるなんて、ありえない!

ヤバいぜ、これは。

マズいな!とか2人で言いながら、対向車のライトに照らされると薄ぼんやりを見失い、道が全く見えなくなる。
スピードを落とす。ガードレールが見えた、やばいやばい。
後ろからも車が来る。後ろの車のヘッドライトで自分たちが走っているライン、ガードレールとの間隔、道の先のカーブが見える。助かった。
すぐに追い抜かされて、また暗くなる。
他の車の灯りに道を照らされ助けられながら、でも通り過ぎた後何も見えなくなる、の繰り返しで、スピードは勿論落としながら、まさに一寸先は闇、自分たちどうなるのだろう、という状態になっていった。

よくそんな状況でも走ってたな。 道路の両側は切り立った山肌、道路は片側1車線。停めるところも無かった。

多分、危機的状況になって3分後くらいだと思うけれど、薄ぼんやりのヘッドライトが、いよいよ全く見えなくなった。
雨が叩くフロントガラスの前は漆黒の闇となった。月もない。高速とは言えそれほど車幅も広くない。
そこを1列悠々3人乗りのデカい車で走っているのだ。
いや、スピードはもう相当落としていたと思うけれど。 道路の先は見えない、でもストレートの後にカーブ、というのが続いているのは確かだ。
ガードレールも見えない。

そして運転していたマキが叫んだ。「ハンドルが効かない!」やばいッ!

「どうするっ?」「ブレーキは?」
「停めるか」 ブレーキは効くのかわからないから、車体をガードレールにこすりつけて停めるか?なんて、急いで話しながらいる最中も、運転しているマキは「私珍しく、足がふるえている」なんて言ってくる。
落ち着こう!と僕も言うが、今考えたら落ち着いた声ではなかった。
衝突に備えないと。後ろを向いて子供たちに車の真ん中でしっかり背中を付けて座るように指示。
こんな場所で停める訳にも行かない。 停める?いや、もう少し行く。と、極度の緊張のなか、冷静さを失わせるような興奮、不安に巻き込まれないように、二人とも前方に目を凝らしながら(それでも何も見えないのだけれど)、会話をした。

ハンドルは、どうやらパワステが効かなくて極度に重くなっているらしい。
そうだ、とわずかでも明かりを採ろうと携帯を取り出すが、僕のもマキのも電池切れ。ipodも。なんてこった!
とっさに荷台のバッグを慌てて引き出し、中からノートパソコンを出した(あえてMacと書く)。
開けてすぐに起動、助手席のフロントガラスに開いた画面をピッタリ付けた(Macは起動が早かった)。
ああ、光だ!真っ暗闇に浮かぶわずかに白いガードレール(15インチにして良かった)。

もやっと見えるだけだったけど、ガードレールに衝突したり、対向車線へ大きく飛び出す怖さが減った!
時々急に対向車が来るから、それも時速100kmで、もし対向車線に飛び出していたらお互いよけられずアウトだからだ。
後ろから車が勢い良く暗闇を飛ばしてくる。
前をトロトロ走る、テールランプも何も点いていないこの車に気が付かなければ、激突だ。
気が付いてくれ!と祈りながら1台ずつやり過ごす。
今度は後ろの子供たちにガードレール側にピッタリ体を付けるように指示した。万が一、後ろから来た車がこの車に気が付くのが遅くなってしまった時のために。

わずかな時間が長く感じられた。
親の並々ならぬ緊張感は子供たちにも伝わっているようで、寝ていたカント以外は真剣に前を見ていた。

気が付けばエンジンが切れていて、慣性で走っていた。
ちょうど下り坂から登りに差し掛かり、次の下りまでしばらくありそう。もう停める以外の選択はなかった。
道路脇の白い線とガードレールのわずかな間に、ぜんぜん車の巨体は収まらないけれど、気持ちだけでも路肩に出来る限り寄せて、もうどうしようもない状況で車は止まった。 動けない。

すぐにやれることとして、カバンの中からありったけの白い洋服、布類を出し、後部トランクのドア、車体側面やフロントボンネットに掛けて、前方後方からの車に存在を気付かせるようにした。
それでも時折通る後ろからの車が、高速で脇を通り過ぎる度に風圧で車が揺れ、いつ衝突されるかと気が気じゃない。
右後ろがガードレールに付いて、左フロントが少し車道に飛び出すような状態で、若干斜めに車が止まってしまっていたので、車をまっすぐにガードレールに寄せたかった。 車を動かすのに、後ろから押してガードレールと車の間に隙間を作る必要があって、戦車が来た!なんて言われる事もあるアホみたいな大きさの車をマキは運転席、僕一人で押すということにも挑戦した。
もう雨は大分弱くなっていたけれど、恐らく半時間くらい格闘して、20cmくらいは外側に動かせたかな。

車の中では、起きている子供たちに丁度お土産で買ってあったパンを配って、状況を話し、朝までその場所で過ごすための準備を簡単にする。
水が少なかったのがネックだが、食べ物と、夜を過ごすための防寒具は沢山あって、数日前のオアハカを出発した時に車内で使ったシェラフまで持っていたから、装備は心強い。
じゃあ、お休み、と子供たちを横にした後も、時折横を通り過ぎる追い越し車両が心配で、僕はMacを持って外に出て、せめてバッテリーが切れるまででも、と後続車両が来るのが見える度に白い画面を振っていた。

それからしばらくして、時刻は確か23時半くらいだったと思うけれど、通り過ぎた後、視界の中を戻ってくる1台の車があった。
車体にはPOLICIA(警察)の文字。
ウチの車のすぐ後ろに付けると、制服姿のおじさんが降りてきて「どうしました?」

経緯を話すと、夜中でも隣の村までならレッカー車を呼んで移動を頼めるよ、という救いの言葉。
その場所は警察の無線も入らないので、30分ほど行ったらレッカーサービスに連絡して、レッカー車をこの場所に手配してくれることになった!ヤッター!
しかも、待っている間もこの場所は危険だからとパトカー(SUV)でウチの車を押して、ガードレールが無く、路肩が開けた場所まで動かしてくれた。
マキも僕も、それだけでものすごい安心感を得た。やっと、これで死ぬことはないぞ、と思えたのだ。

それから1時間ほどでレッカー車が来て、巨体を軽々と持ち上げて運び始めた。
僕ら全員車の中から、ケロッと遊園地気分、ねー見て見て!高いよ、ほらー運転してないのに動いてるー!なんてハシャギながら30分、オアハカまで2時間弱くらいのところにある村までレッカーで移動した。
そこには24時間開いているドライブインレストランとかガソリンスタンドがあって、そういう看板が見えてきたとき、やはり思わずジンワリ感じてしまった。

レストランの駐車場に停めてもらって、レッカーのおじさんに感謝を送り別れると、レストランで飲みものを買って、もう一度車の中で寝る準備をした。
さっきまでは恨みたくなるほど馬鹿でかかった車の大きさが、家族で車内泊するにはやっぱり丁度良いな、なんて思いながらみんなで寝た。
次の日、レストランで携帯充電したり、朝ご飯を食べたら、僕はカントを背負って、ガソリンスタンドの脇から村の集落に向って伸びる道を、自動車修理屋を捜しながら歩いた。
前の晩、助けてくれた警察が教えてくれた修理屋を見つけ、朝から、結局電気系(バッテリーを充電するためのコネクタ)の修理と、オイル漏れがひどかった駆動部分のギアボックスのパーツ交換などで午後3時まで掛かったが、調子の戻った愛車に乗って、その村から無事、家路に付く事が出来た。

後日確認すると、バッテリーは整備を頼んだ修理屋の手違いで乗せ間違えちゃったこと、今回問題のあった電気パーツは確認したはずなんだけどなぁ、ということが判明して、スッキリ。(なわけない!)

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